女性の活躍など望まれなかった社会で周囲の偏見にめげず、果敢に生き抜いた女性の輝き。江戸末期から明治大正にかけて激動の時代に、想像を絶するエネルギーと知力胆力で実業界を駆け抜けた女性の生涯は、現代の女性たちにとっても心強い応援歌であるだけでなく、昨今の社会の沈滞ムードに活を入れ、奮起を促すものにもなるのではないか。『土佐堀川』はそんなことを思わせてくれる舞台だ。
 ヒロイン、広岡浅子(高畑淳子)は京の豪商三井家から浪速の両替商・加島屋に嫁いだ御寮さん。けれど、三井の血がそうさせるのか、家の奥に引っ込んだ生活に耐えられず、風流や芸事好きで商売に身の入らない夫、信五郎(赤井英和)に代わって店に立ち、邪魔な振袖を煩わしそうにはねのけ、着物の裾も大股でさばいて、脛もあらわに米市場をのし歩いた。そんな浅子を男たちは狂人を見るようにして見たという。高畑淳子の浅子はまさにそうした狂女のイメージそのままに、鼻息も荒く登場する。打って付けの役どころだ。
 その兄嫁に世間体を気にして露骨に不快な顔をみせる加島屋の次男坊、正秋(田山涼成)。これがまた、見るからに嫌味な男の作りで、観客は嫌でも浅子を後押ししたくなる。とにかく明るく前向きで押しの強い浅子。義弟正秋の露骨な干渉にもめげず、持ち前の機転で傾きかけた店を立て直し、かえって事業を拡大する。すでに正秋の敵ではない。
 石炭事業に目をつけ、単身炭坑に乗り込むシーンは前半最大の見せ場だ。浅子が嫁入りに伴ってきた若い小藤(南野陽子)に、留守の間の夫の面倒一切を託して、見交わす二人の眼差し。その微妙な温度差からくいちがう二人の思いがそこはかとなく伝わる。劇画的なドタバタ騒ぎの一方にあって、南野のしっとりと押さえた演技は貴重で、忘れがたい。
 浅子の活躍は後半になって一層光を増す。大隈重信邸で見かけた成瀬仁蔵(葛山信吾)の女子教育にそそぐ情熱に、自分には許されなかった高等教育への夢を託すように、大隈夫人(紫とも)を介して大物政財界人たちの支援を取り付け、ついに日本女子大学校の創設にこぎつける。無理がたたって病に倒れた後には、保険の重要性に思い至り、事業の大半を娘婿(篠田光亮)に任せ、自らは大同生命保険会社の創立に尽力する。実業の鬼だった浅子の女性、ひいては社会の発展に寄せる熱く純粋な思いがひしひしと伝わって感慨深い。娘婿役、篠田も初々しい青年実業家をさわやかに演じて好演だ。
 大義に基づく社会事業であるべき教育が、あたかも恣意的な都合に左右されているかの昨今の騒ぎを目にするにつけ、大実業家広岡浅子の社会的献身や信仰心は批評的意味合いをおびて一層尊く感じられる。
 田村孝裕の演出は喜劇性を狙って誇張に走りがちなところも見えるが、少し抑えて、後半のじっくりと心にしみるような場面をもう少し増やしたら、さらに素敵な作品になるだろうと思った。
 












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