その男 中華一 性格の悪い天才軍師
秋の五丈原で一人の男が筆を手に戦略を練っている。
余命の一滴まで筆に含ませ、
今、自分亡き後、蜀軍六万の兵を一人も死なせることなく撤退させる
その方法を書き記している。
男の名前は諸葛亮孔明。
かつて、中華で一番性格の悪い天才軍師と呼ばれた男。
男はふと筆を止めて、過去に思いを廻らせる。
劉備が、関羽が、張飛が・・・
三国時代を駆け抜けた今は亡き英雄たちの笑顔が脳裏をよぎる。
人を見下し、人を信じず、人が嫌いだった自分が、
どうして今、命の一滴までを策として、
蜀軍六万を助けようとする人間になったのか。
これは、五丈原の戦いで
諸葛亮孔明が死ぬ
その最後の一夜の物語。
もう一つの三国志演義である。