REVIEW
スターを生み出すミュージカルへの飛翔
ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』「New Generation Team」公演レポート
2016年のシアタークリエでの日本初演以来、「ジャージー・ファミリー」と称される熱狂的ファンを生み出し、旋風を巻き起こし続ける奇跡のミュージカル『ジャージー・ボーイズ』。1960年代に活躍したニュージャージー州出身の4人組音楽グループ「ザ・フォー・シーズンズ」が経て来た実話をもとに、彼らがスターに上り詰める栄光の道と、その裏にあった莫大な借金によるグループ内での確執、家族との不仲がもたらした離散などの濃い影とを、彼ら自身のヒット曲で綴る作品は、世界初の“コンサート版”上演、全国ツアー公演、コロナ禍による無念の全公演中止を経た、帝国劇場でのコンサート版奇跡の復活、そして日生劇場公演と、歳月と回を重ねてきた。そして2025年夏、日本の『ジャージー・ボーイズ』が生まれたシアタークリエでの上演が実現。文字通りの凱旋公演は、全日程ソールドアウトの熱狂のなか日々熱い舞台を展開している。
そんな奇跡のミュージカルが9月4日と5日にもうひとつの奇跡を起こした。フランキー・ヴァリ/大音智海、トミー・デヴィート/加藤潤一、ボブ・ゴーディオ/石川新太、ニック・マッシ/山野靖博による「New Generation Team」による公演が「Team BLACK」(中川晃教、藤岡正明、東 啓介、大山真志)、「Team YELLOW」(小林 唯、spi、有澤樟太郎、飯田洋輔)、「Team GREEN」(花村想太、spi、有澤樟太郎、飯田洋輔)と肩を並べた満員の大盛況のなか、見事な幕を開けたのだ。
このミュージカル『ジャージー・ボーイズ』も大きな試練に巻き込まれたコロナ禍は、エンターティメント業界に筆舌に尽くし難い痛手をもたらした。そもそもエンターティメント自体が不要不急のものとされ、全ての劇場の灯が消えたあの日々は、いま思い返しても胸ふさがれる辛い記憶になっている。ただ、そのなかから良いことをなんとか探し出そうとするなら、例えどんなに体調が悪くても舞台に穴を空けるべきではない、というコロナ禍以前の舞台芸術に根強く残っていた意識が、大きく転換されたことだったのではないだろうか。この意識改革は日本ではまだまだ浸透していなかったメインキャストのカバーを務めるアンサンブルメンバーや、全ての役柄の代役に入ることができるという、頭をたれるしかないスウィングを務める俳優が、公に告知される流れを生み、舞台で様々な役柄を演じるアンサンブルメンバーの地力の高さを、改めて目にする多くの機会を生んできている。
そのなかで、今回ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』が踏み出した更に大きな一歩が、カンパニー内でのオーディションを経た「New Generation Team」による本公演の実現だった。こうした公演期間中に若手だけの主演公演を上演する形態は、宝塚歌劇団の新人公演がよく知られているし、劇団四季も日生劇場で盛んにミュージカル作品に取り組んでいた時代には、水曜日の昼公演のみ若手スターが主演を務めるシステムを導入していた例がある。ただそれらは劇団というひとつの大きな組織のなかで、スターを育てていく過程を、観客も共に見守っていく側面を持っていた。
だが、今回の「New Generation Team」による上演は、プロデュース公演のなかでひとつのTeamとして、ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』という作品そのものを、次の世代につなげていこうという、大きな攻めに出た極めて前向きな意志が感じられる企画で、あまりの人気ぶりに即座に追加公演が決定したのもうなずけるものだった。実際、商業演劇の括りのなかで、こうした試みが実現するのはひとつの革命でもあったと思うが、それに応えた4人のNew Generationたちの予想を遥かに凌駕する熱演と、もたらした成果には、胸が熱くなる情熱が満ちていた。
そのなかで、今回ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』が踏み出した更に大きな一歩が、カンパニー内でのオーディションを経た「New Generation Team」による本公演の実現だった。こうした公演期間中に若手だけの主演公演を上演する形態は、宝塚歌劇団の新人公演がよく知られているし、劇団四季も日生劇場で盛んにミュージカル作品に取り組んでいた時代には、水曜日の昼公演のみ若手スターが主演を務めるシステムを導入していた例がある。ただそれらは劇団というひとつの大きな組織のなかで、スターを育てていく過程を、観客も共に見守っていく側面を持っていた。
だが、今回の「New Generation Team」による上演は、プロデュース公演のなかでひとつのTeamとして、ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』という作品そのものを、次の世代につなげていこうという、大きな攻めに出た極めて前向きな意志が感じられる企画で、あまりの人気ぶりに即座に追加公演が決定したのもうなずけるものだった。実際、商業演劇の括りのなかで、こうした試みが実現するのはひとつの革命でもあったと思うが、それに応えた4人のNew Generationたちの予想を遥かに凌駕する熱演と、もたらした成果には、胸が熱くなる情熱が満ちていた。
フランキー・ヴァリの大音智海は、そもそも日本でのミュージカル『ジャージー・ボーイズ』が、いまも現役の歌手として活動を続けるフランキー・ヴァリの「天使の声」、トワングと呼ばれる独特の発声をこなす、中川晃教の存在ありきではじまった初演時から、ザ・フォー・シーズンズの一員になったかもしれないハンク役他で、出演を続けてきた人材。これは演出の藤田俊太郎の功績のひとつでもあるが、様々な役柄を演じるメンバーにもどこかで必ず耳目を引く持ち場が用意されているこの作品で、大音が美しいトワングを披露した瞬間「ここに日本のフランキー・ヴァリになれる人がもうひとりいる」と感じさせた初演の記憶はあまりにも鮮烈だ。それから9年。大音自身が『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』のベイビードール役をはじめとした数々の舞台で大きな注目を集め、満を持して臨んだフランキー・ヴァリ役では、美しい歌声は言うまでもなく、芝居力の高さを強く感じさせる仕上がりになったのに目を引かれた。ザ・フォー・シーズンズのなかで誰よりもスターの輝きを持っているフランキーが、人として抱えている心の弱さや、不器用な生き方を大音が繊細に描き出したことで、フランキーが作品のなかで敢えて選んでいく苦難の道程を、なんとか応援したいという気持ちがより募ってきたのは大きな発見。踊れる強みも軽やかな動きにつながり、是非また観たいと思える大音フランキー・ヴァリの誕生に拍手を贈りたい。
そんな「New Generation Team」が起こした新風が、回を重ね成熟を続けているミュージカル『ジャージー・ボーイズ』自体に、原点回帰の香りを持ち込んだことも大きな功績で、ザ・フォー・シーズンズのドラマを客席も共に体感する藤田演出の目指すところが、改めて鮮やかに浮き彫りになった感が強い。それは、ニュージャージーの貧しいイタリア系の若者が、どん底の暮らしから抜け出す3つの道「軍隊に行く、マフィアに入る、スターになる」の最も実現困難な道である「スターになる」を叶えた4人の物語が、まさにここから次のステップ、次のステージを目指していく「New Generation」としての4人自身の物語と重なったからに違いない。これは中川晃教フランキー・ヴァリからはじまった、つまりスターが生み出した日本のミュージカル『ジャージー・ボーイズ』が、スターを生み出すミュージカルに変換された、作品自体がそれだけの揺るぎない力を持った瞬間でもあった。そんな4人の自由な呼吸、演技を受け留めた原田優一、川口竜也、畠中洋、ダンドイ舞莉花、原田真絢、町屋美咲、柴田実奈、LEI’OH、山田元、伊藤広祥、若松渓太、また長きに渡り作品を支えてきたスタッフ、カンパニーの度量の深さが素晴らしく、ここからはじまる大音智海、加藤潤一、石川新太、山野靖博の俳優人生と、ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』の新たな航海をずっと共にしていきたい、そんな想いが募る貴重な公演の実現を喜ぶと共に、この企画もまた明日につながっていくことを願っている。
(取材・文・撮影/橘涼香)