COLUMN

『メイビー、ハッピーエンディング』
~韓国オリジナルミュージカルの歴史を変えた、素敵な恋の物語~

日韓ミュージカル・コーディネーター
高原陽子

  • 前編
  • 後編

観客を魅了した、その類まれな作品性

「ない。チケットが本当に1枚もない・・。」

2016年から17年の冬にかけて、韓国のオフ・ブロードウェイと呼ばれる、小劇場が密集する街・大学路にてよく耳にした言葉だ。キャンセルのチケットが出ても瞬殺でなくなり、公演掲示板にはどうしても観たい!何度でも観たい!というコメントにあふれ、日ごろ欧米のライセンス作品には優しく、自国である韓国のオリジナルミュージカルにはなかなか手厳しい公演批評家たちも絶賛のレビューを連発していた作品、そう、それが『メイビー、ハッピーエンディング』(以下、『メイビー~』)の記念すべき韓国初演だった。幸運にも、千秋楽間際に作品を観ることができたのだが、まずびっくりしたのは、上演前にも関わらず、劇場いっぱいを埋めた観客たちの幸せな高揚感。超がつくほどの入手困難なチケットを手にし、これから始まる舞台を今か今かと待っている人々、すでに何度も観ているかと思われるリピーター達は双眼鏡とハンカチを取り出し、万全の態勢で待機している・・、初日や千穐楽が毎日続いているかのような、まるで魔法がかった演劇空間。これは、韓国ミュージカル界で10年以上トップを走り続け、大衆からミュージカルマニアまで魅了する当代随一の俳優、チョ・スンウが、これまた韓国人が最も愛する大劇場ライセンスミュージカル『ジキル&ハイド』に主演する時によく見られる光景なのだが、大学路の小さい劇場で、しかも初めて上演される韓国オリジナル作品が、それと同じ、いや、それ以上の舞台のトキメキを観客にプレゼントしていたのである。

韓国ミュージカル賞、総なめ!

『メイビー~』の快進撃は2017年の間ずっと続き、初演時の記録的なソールドアウト、満席の観客達が鑑賞後発信する絶賛レビューがどんどんと広がり、初演から1年も経っていない17年10月には、どうしても再演を望む観客達の熱いラブコールに応えて、アンコール公演を実現させた。これは、年間約200本のミュージカルが制作され、その70%がオリジナルミュージカルであり、その中でも本当に一握りの作品だけが再演にこぎつけられるという、非常に熾烈な環境の韓国公演界の中でも特筆すべき成功例だ。これほどの観客からの愛を受けた作品は、批評家たちからは敬遠されることも多いのだが、前述の通り一度でも『メイビー~』の世界観に触れた批評家は、戯曲と音楽のクオリティに舌を巻き、近年の韓国オリジナルミュージカルのレベルを上げた秀作として紹介した。その集大成となったのが、17年11月に開催された、その年の韓国オリジナル作品のベストを定める第六回イェグリーン・アワード。今年のミュージカル賞、最優秀音楽賞(ウィル・アロンソン)等の主要4冠、そして翌年のライセンス作品・韓国オリジナル作品の両方を対象とした第二回韓国ミュージカル・アワーズで、小劇場作品賞、作曲賞(ウィル・アロンソン)、戯曲・作詞賞(パク・チョンヒュ&ウィル・アロンソン)、主演女優賞(チョン・ミド)等の主要6部門の制覇。今となっては‘伝説の初演’と呼べるほどの大成功を収めた。

次回のコラム後編では、ここまでの人気作となった『メイビー~』の愛されポイントと
作品の魅力分析、そして米国での英語上演を成し遂げるまでを解説。ご期待あれ。

日韓ミュージカル・コーディネーター 高原陽子 プロフィール

1979年東京生まれ。青山学院大学英米文学部在籍中に、韓国・梨花女子大学へ交換留学。その後、日本の一般企業に就職し、再び渡韓。現在は、ミュージカル・コーディネーターとして、日本と韓国の双方に、様々な作品や俳優たちを紹介している。

韓国人パートナーとの間に一女をもうけ、現在ソウル在住。

― 主なコーディネート事例 ―
(日本) 2017&2015年『レ・ミゼラブル』ヤン・ジュンモ
2016年『ミス・サイゴン』キム・スハ
2014年『Music Museumコンサート』パク・ウンテ・・・等多数
(韓国) 2018年『ソウルスターライト・ミュージカルフェスティバル』中川晃教
・・・他、韓国唯一のミュージカル専門誌『The Musical』誌で日本のミュージカル作品や俳優紹介の際、企画・翻訳を不定期で手掛けている。