Report

前回公演 大竹しのぶ万感の大千穐楽、週刊文春密着レポート

週刊文春 2022年4月21日号「女の肖像」より要約。 筆者:小堀隆司

「水に流して」

三時間の舞台に、ほぼ出ずっぱり。台詞だけでなく、十六曲もの歌を歌い、全身全霊で役を演じる。フランスの国民的歌手ピアフの生涯を描き、今や大竹しのぶの代名詞にもなりつつある舞台『ピアフ』。通算百九十七回目の公演に幕が下りると、二度三度と観客席から熱いカーテンコールが鳴り響いた。

「本当に嬉しいですね。今はコロナ禍でお客様も声を出すことができない。それでいつも温かな拍手をたくさんいただくんですけど、『まるで千穐楽みたいだね』って皆で感動してます」 二〇一一年の初演以来、何度もリバイバルを重ね、四年振り五度目の再演となる。(中略)

だが話を聞いたこの日、ついに関係者の一人に陽性反応が出て、翌日の二公演が急きょ中止になってしまった。(中略)大竹はまるでこうなることも覚悟していたように、前日の夕方にこう語っている。

「この後検査結果が出るんですけど、もしかしたら今日が最後で明日はできなくなるかもしれない。コロナ禍の舞台は毎回そんな気持ちで演じています。ピアフに『あたしが歌うときは、あたしを出すんだ。全部まるごと』って台詞があるんですけど、いつもその言葉に励まされている気がしますね」

本場フランスではシャンソンを過去の音楽と見る向きもあるが、なぜピアフの歌は古びないのか。大竹はピアフ作詞の名曲『愛の讃歌』の歌詞を引き合いに出し、こう語った。

「(中略)原曲は『世界が滅びても私はあなたを愛するし、お月様だって盗んでやるの』と書いてあってより激しい。そういう強い愛に私は惹かれるし、素敵だなと思う。思い切り人を愛して、笑って、怒って、それでいていつもピアフは孤独を感じている。孤独を知るからこそ、彼女はきっとステージ上で人にも大きな愛を与えられたと思うんです」(中略)

観客と共に泣き笑い、なんとかたどり着いた百九十八回目の公演(大千穐楽)。カーテンコールに促され、出演者全員が舞台上に姿を現すと、大竹は万感の思いで気持ちを代弁した。

「こんな状況の中で来てくれてありがとう。今はそれしか言えません。『水に流して』をもう一度歌います。新しい人生に向かうために、みんなで歌いましょう」(中略)

笑顔の大団円。だが、二百回目の公演はこのまま幻となってしまうのか。いや、再演を望むファンがそれを許さないだろう。何度も逆境を跳ね返し名曲を世に残したピアフ同様、大竹ピアフもまた何度でも舞台上で甦るに違いない。