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コラム



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 2012年のクリスマス・シーズン。もうひとつの『レ・ミゼラブル』ブームが巻き起こった。オリジナル演出版『レ・ミゼラブル』の日本公演が2011年に終わり、新演出版『レ・ミゼラブル』が2013年にお目見えするまでの間である。オリジナル版終演の寂しさと、まだ見ぬ新版への期待感の狭間で揺れる『レミゼ』ファンの渇望感を満たしてくれるような、まさに絶妙のタイミングだ。
 映画版『レ・ミゼラブル』の日本公開は12年12月21日。長年の『レミゼ』ファンにとっては待ちに待った映画化だ。というのも、舞台ミュージカル『レ・ミゼラブル』を映画化する企画自体は、この作品がロンドンで開幕した85年から間もなく88年には持ち上がっていたからだ。当時は、アラン・パーカー監督での映画化がウワサされていた。後に『エビータ』(96)も監督することになる音楽やミュージカルに強い監督である。
けれど、これは実現せず、その後も何度か企画は浮かび上がっては立ち消えていく。そんなニュースを耳にする度にファンは一喜一憂してきたのだ。だから、2010年にロンドンで開催された『レ・ミゼラブル25周年記念コンサート』がDVD化され、その発売と合わせるように流れてきた映画化ニュースにも、まだ半ば懐疑的だった。でも、11年にトム・フーパー監督らスタッフ、キャストの名が順次伝えられる始めると共に期待感はぐんぐん膨らんでいったのだった。
映画版は、ヒュー・ジャックマンのバルジャン、ラッセル・クロウのジャベール、アン・ハサウェイのファンテーヌ、エディ・レッドメインのマリウス、アマンダ・セイフライドのコゼット、ヘレナ・ボナム・カーターのテナルディエ夫人、サシャ・バロン・コーエンのテナルディエ、サマンサ・パークスのエポニーヌといったキャスティング。嬉しいことに、ロンドン・オリジナルのバルジャン、コルム・ウィルキンソンが司教を、同エポニーヌのフランシス・ラフェルが娼婦役を演じてもいた。


 舞台で生まれたあの名曲の数々に、映画版オリジナル曲「サドンリー」を加え、ダイナミックな映像で紡いだ映画は、大ヒット。作品賞はじめアカデミー賞7部門にノミネート、アン・ハサウエィの助演女優賞、録音賞も受賞した。日本では、年を越え、冬が去り、春を迎えてもロングランを続け、日本のミュージカル映画史上記録的な興収を上げた。映画の大ヒットは、舞台を見たことがない層にまでミュージカル『レ・ミゼラブル』の魅力を知らしめることにもなったのだ。
映画版のロングランがまだ続いているさなかの2013年4月23日、ついに新版『レ・ミゼラブル』のプレビューが開幕。演出や装置、照明、衣裳までを一新、キャストも森公美子らごく一部を除いて一新した、真新しい『レ・ミゼラブル』である。それが、帝劇でその全貌を明らかにしたのだった。劇場に入るや、『レミゼ』時代をほうふつとさせる緞帳の絵が目に飛び込む。原作者ヴィクトル・ユゴーが描いた絵だ。一気に19世紀の街にワープした気分。ユゴーの絵は劇中の背景随所に生かされ『レ・ミゼラブル』の世界観を作り上げている。そうそう、『レ・ミゼラブル』のロゴもユゴーが書いたものだ。


 紗幕に冷たい波しぶきが飛び散る映像。それを透かして見える囚人たち。「囚人の歌」のナンバーと共に紗幕が上がる。緊迫感に満ちたドラマティックなオープニングから、圧倒される。なんとも、新鮮。演出はローレンス・コナーとジェームズ・パウエル。コナーが得意とする映像使いが、臨場感を醸し出して効果的だ。オリジナル版の回り舞台がなくなった代わりに、作り込まれた町並みなどの装置が登場。具象的なのだ。


 物語の展開は、オリジナル版とほぼ同じ。けれど、ユゴーの原作に立ち戻って洗い直した脚本には、随所に目配りの利いた改変が織り込まれている。例えば、仮釈放され彷徨うバルジャンが通りすがりに少年から硬貨を奪うシーンが新たに入ったり。この場面があるだけでバルジャンの心の荒みようが明確になり、やがて司教と出逢ったあとの改心も、生まれ変わる決心をする「独白」のナンバーもいっそう印象的に響いてくる。
ファンテーヌが働く工場のシーンは、ちょっと映画版に寄った印象。前述の装置同様、衣裳もぐんとカラフルになった。映像が醸す臨場感は、マリウスを担いだバルジャンが下水道を行くシーン、ジャベールの自殺シーンでとりわけ顕著になる。さらに、さらに、と目新しく、鮮やかな展開が連なっていく。ぐんと具象的になった新版は、初めて観劇する人も置き去りにしない明快さもある。


もちろん、不朽の輝きを持つミュージカル・ナンバーの魅力は言うまでもない。美しいメロディが紡ぎ出す壮大な世界は、初演から連綿と引き継がれ、輝きを放ち続けているのだ。ロンドン初演から30年、日本初演から28年、『レ・ミゼラブル』は時を超え、世代を超えて見る者を感動させ、魅了しつづけてきた。そんな『レ・ミゼラブル』新章のページはまだ開かれたばかり。2015年の再演を手始めに、さらに未来へ向けて進化を重ねていくに違いない。

(敬称略)